プロジェクト型プログラムとは〜愛のキャラバン隊コンセプト

「チャレンジプログラム」5年間の間には多くのプログラムがあった。中でも、病院での手作りコンサートは、元気な若い女子高生と、孤独や不安の中で頑張っている患者様が、互いに支えあい、多くのことに気付く契機ともなる意義深いプログラムとして実施されてきた。毎年、会場中が涙と感動に包まれ、そのメンバーは「愛のキャラバン隊」と呼ばれ、地域の人にも親しまれてきた。2005年、チャレンジプログラム発足6年目に、その愛のキャラバン隊が、今までの成果を踏まえて、以下の三つのさらに充実した活動になった。

・街頭や、保健所、企業、地域に出向いて行って、乳がんの早期検診啓発活動をした『ピンクリボンキャラバン隊』(ピンクリボン運動)
・不安を抱える入院患者様に癒しのアートをプレゼントした『イエローアーツキャラバン隊』(ホスピタルアート)
・乳児院の子供達や入院患者様に歌をプレゼントしに行った『ホワイトミュージックキャラバン隊』(訪問コンサート)

以上三つのキャラバン隊は、「愛のキャラバン隊」と言う名のもと、以下のコンセプトを共有ながら、それぞれの活動を続けた。同時に、これはプロジェクト型プログラムのコンセプトでもあった。

◆6年間培ってきた自分たちの力を合わせて、社会とつながり、人を信じ、社会やそこに住む人の心を変えようという思いを実現しよう。
◆明確な目標設定をし、困難や試練を乗りこえ、目標達成から自信を実感し、将来のキャリアに生かそう。
◆上記のために、長期にわたる活動を継続していこう。(例・ピンクリボンなら3ヶ月で70時間)
◆NPO団体・企業・社会の人材・施設・論理等を、積極的に学びに取り組もう。

何故、このようなコンセプトを掲げたのかを少し述べてみたい
社会(地域)を信じ、人を信じ、目標を持って前向きに何かをやってみる!そう言う人であふれたら、社会は、そして、日本は、経済も文化も、もっともっと活性化していくに違いない。そして何よりも、自分自身がより豊かなキャリアを力強く生きていけるようになるだろう。
しかし、現実はどうか。青年が社会に対して夢を語れなくなくなって久しい。それどころか、大人や社会が信じられないとか、味気ないとか言う否定的な言葉をよく耳にする。加えて、自分に自信を持てない者も多い。進路学習でアンケートを取っても、経済的価値観や資格志向が強い一方、ボランティアや地域・PTA活動等への社会参画意識が極めて欠如していることが分かる。
そのことは、地域社会がつながりを失い、子供達が多様な価値観を学ぶ機会を失っているといった、社会の構造的な変化に加えて、その変化に対して新たな対応を積極的に行ってこなかった教育にも多分に責任があるのかもしれない。特に、社会との接点のあまりの少なさ。
しかしながら、実際は、『人々は温かく、社会はダイナミック(流動的)で、多様な価値観に富み、いろんなことにチャレンジする価値がある。目標達成には困難はつき物だけど、目標を達成できたら、自分に自信も生まれるし、場合によっては社会を変えることだって可能だ。』


こういったことを身をもって体験できる教育が、今の学校教育には求められているのではないだろうか。チャレンジプログラムも『愛のキャラバン隊』もそこから生まれた。一方で、ニートという言葉をよく耳にするし、自分がどうしたいかではなくて、受験の延長で、出来れば大企業にと言うマニュアル的な思考で就職していき3年以内で離職する者も多い。教育現場では、こういう現状に具体的にどう対処すればいいのか。学校から社会へのスムーズな移行のために、学校教育の早い段階から、職業や社会に対する意識を高める教育を実施していくことが課題にもなっている。
それならばと、文部科学省でのキャリアスタートウイークや、兵庫県のトライやるウイークを始め、職場体験で職業観を育成しようとする試みが最近各所で見られる。しかしながら、社会の魅力は決して経済的価値観だけではないし、たった数日の体験で、目的意識や困難克服過程が明確にならない状況では、そういった試みは必ずしも解決策にはなるとは思えない。もちろん知識教育が社会の魅力を十分に体感させてくれるとも思えない。
だからこそ、多様な価値観に触れながら、『社会とつながり、人を信じ、社会を変えていこう』と言うコンセプトを掲げて、目標を持って、長期にわたって困難(試練)を乗りこえていく、目標達成型の教育プロジェクト「愛のキャラバン隊」を実施してきた。
ただ、そのためには学校と地域との連携の重要をうまく図りながらプログラムを実施していくことが求められる。と言っても、それはある意味、今までチャレンジプログラム6年間で実施してきたことの集大成でもあった。例えば、市場と連携して老人ホームで市場を開いたり、地域に出向いて小学生の放課後保育をしたり、震災復興住宅を訪問して孤独な老人と歌を歌ったり、花を生けて地域の店や消防署にプレゼントに行ったり、JTBや田崎真珠に行って新商品を開発したり…と、チャレンジプログラムでは学校を飛び出して、異年齢、異文化等、社会(企業や地域)の多方面の人材・施設・論理を積極的に学びの場に活用して、社会とつながりながら、奉仕・エコ・芸術・文化・いのち…と多様な価値観に触れたり、人の温かさに触れる試みを多数繰り返してきた。また、世界の災害報告の翻訳ボランティア、難民と神戸の街を歩く足元からの国際理解、神戸の街中での観光ボランティア、視覚障害者への対面朗読といったプログラムでは、NPO団体との連携も積極的に行ってきた。
ただ、今回の新たな試みは、長期にわたり活動し社会を変えていこうという点で、相当の困難が予想された。そんな中、参加してきた生徒達は予想を超えて前向きに取り組むことになった。